何もない土曜日、久しぶりに本屋に立ち寄り気になった本を買ってみました。
能町みね子さんの「正直申し上げて」。週刊文春で連載しているコラムの2021年10月~2024年4月分を文庫化したものだそうです。

本の帯を考えている人に伝えたい、私はほぼ帯で本買ってる。この「目指せ!最高のコタツ記事」というコピーに惹かれました。
――「コタツ記事」を説明すると、取材を一切せず、コタツに入ったまま書けるような記事を揶揄する言葉です。特にネットニュースで、有名人の発言やSNSの文を勝手に抜き出して構成し、分析も批判も一切加えず「◯◯さんがこう言ってました」というだけの内容のものを呼ぶことが多いと思われます。
と、本の中で能町みね子さんが説明してくれていました。
「最高のコタツ記事」を目指して、能町みね子さんがテレビやネットで話題になったこと、気になった言葉について独自の分析や批判を加えたコラム集。私のような、Xで炎上している話題をわざわざキーワード検索して火元を確認しに行ってしまうような人間にとってはとてもワクワクする試みに思えました。

全体を通しての感想は「言葉を生業にしている人は、言葉を大切にする」ということ。当たり前すぎるけど。言葉を扱うスタンスも含めてその人物を捉えている。能町みね子さんは「芸能人の結婚報告文」を取り上げていることが多くて特にそう思いました。
・記憶をほとんどその日に置いてくる私(滝沢カレン)
・もしよろしければ、これからもよろしく(眞栄田郷敦)
・人生いろんな選択がありますが『結婚する』を選んでみました(シソンヌじろう)
・皆様の全てを、最高の形にできるように(羽生結弦)
能町みね子さんはこれらの報告文で使われてるペンの種類とか筆圧とかにまで着目してておもしろい。結婚報告文のオタク。
あとは「政治家や企業が公表する文章」についてのコラムも多かった。「公の文章」にはある程度「型」があるので、そこからどう逸脱させているか(あるいはしてしまっているか)で文章を出す側の本性や魂胆がにじみ出やすく、分析しがいがあるのですね。
せっかくなので私も能町みね子さんに倣い、話題になった言葉について何か書いてみようと思いました。このブログのタイトルにしている「生きるのに意味なんかいらんねん!もうええわ」。これは、2024年M‐1グランプリで準優勝したコンビ「バッテリィズ」の「ツッコミ」、エースさんが1回戦の漫才のラストで発した言葉です。(この本を読む限り能町みね子さんも熱心なM‐1ウォッチャーのようなので、文庫化された後の連載ですでに取り上げてたりするかもしれない。私もM‐1大好きです。)
2024年(今年って書こうとしたけどもう去年)のM‐1は「令和ロマン」が大会初の二連覇。すごかった~。しかも大会初の「トップバッターで優勝」を2年連続で果たした。ネタ順を決める「笑御籤(えみくじ)」を引く役目だった阿部一二三が、「注目しているコンビは『令和ロマン』」と壮大なフリの後に見事な神引きをして令和ロマンをトップバッターで登場させ、その後も去年の順位順に「ヤーレンズ」「真空ジェシカ」を引き当てて大会を大いに盛り上げました。今年の優勝は阿部一二三。
もともと、私はちょっと令和ロマンの二連覇に期待していた。だって1回優勝したのにわざわざ次の年も出て微妙な順位で終わったらダサすぎるからリスクデカすぎるし、でも、天才令和ロマンのことだから、もう1回出るならそれなりの覚悟で、それなりの準備をしてきているはずで。やると決めたことをやり切る、それで本当に結果を出す同世代の姿を見て圧倒されてみたかった(スポーツは観ないしやらないけど、これってもしかしてアスリート応援してる感覚?)。何より、令和ロマンのトップバッターのネタはまじで最高に面白かったし。これ以上面白いの来たら死ぬと思いました。
最近って”攻略”がブームだから、令和ロマンのように、漫才を、M‐1を、世の中を考察してハックする若者というキャラはとても受け入れられやすいと思っているし、そのカウンターっぽく登場した「バッテリィズ」の漫才がめちゃめちゃ面白かった。初出場で新鮮さもあったから、審査員のオードリー若林さんから「小難しい漫才が増えてくる時代の中でワクワクするバカが現れた」というコメントも出るほど、結果として令和ロマンを超える高得点で、かなり二連覇が危ぶまれた場面だったと思う。
しかし本当に「賢い令和ロマン/アホのバッテリィズ」の対立だったかでいうとそんなことないと思っている。バッテリィズのツッコミの立場であるはずのエースの発言が実は大ボケになってるという画期的なシステムとか、あとは「生きるのに意味なんかいらんねん!もうええわ」というオチ。これって、2021年優勝の「錦鯉」の「ライフ・イズ・ビューティフル!」を彷彿とさせませんか?2021年の錦鯉も、「ワクワクするバカが現れた」的な評価を受けて美しく優勝していた記憶があります。突き抜けたバカを押し出すのは賞レースのひとつの勝ちパターンなのかもしれない。バッテリィズの漫才こそ、M‐1を、最恐の令和ロマンを攻略するため(また、後日放送される「M‐1アナザーストーリー」の感動的な演出のため)、考え抜かれた「生きるのに意味なんかいらんねん!」だったんじゃないだろうか。
ここまで2組のことばかり書いてしまったけど、決勝で1票しか入らなかった真空ジェシカは面白さがカンストしていて大好きだったし、私が本当に一番名言だったと思うのはジョックロック・ゆうじろーの「俺が面白くなります!絶対になる!」です。座右の銘にしたい。
いかがでしたか?
読書感想文の枠から逸脱し、みんな見たであろうM‐1の印象的なフレーズをタイトルにすることでより多くの人の目に留まってほしかったいう魂胆が透けて見えていたらお恥ずかしい限りです。