kikiの日記

心動いたもの

致死量の恋バナ

最果タヒ百人一首という感情』

おそらくこの本は発売後すぐに購入したはずで、だとすると、5年ぐらいは積読していたことになる。

詩人の最果タヒさんが『百人一首』をひとつずつエッセイで紹介してくれる、つまり、最果タヒさんのエッセイが100本収録された一冊。

私が詩に興味を持ったきっかけは最果タヒさん。恋愛モチーフの作品が多い印象。詩だけじゃなくエッセイが漏れなくおもしろい。タヒさんの、「好き」の感情をとことん言語化してやるぞという姿勢とか、「なぜ好きか」を表現できることこそ文章を書く醍醐味ではないですかという思想に、私はすごく共感する。

最近はじまったこの新連載もアツい。本気の「好き」を伝えるためのお手紙講座。

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君がため 春の野に出でて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ

タヒさん訳:「春の野原にでかけて、あなたのために若菜をつむ、そのとき、わたしの袖に雪が次々おりてくる。」

懐かしいよね百人一首。ぜんぶなんとなく覚えていた。

例えばこの歌にタヒさんが寄せたエッセイを少し引用すると

ただ、感動を伝えたかったんじゃないだろうか。「きみ」のために、春の野へと出ていった。目の前の緑に夢中になり、つい最近まで冬だったことも、少し肌寒いことも、忘れてしまっていたのかもしれない。その中で雪に出会うことができた。その、感動を。それが、「寒い中、それでもあなたのためにつんできたんです」というアピールにとられるということすら、きっと思ってもみなかった。この歌の、自らの眼差しだけですべてをきりとるような形には、「きみ」しか見えていなかった、緑しか見えていなかった、春しか感じていなかった、そんなまっすぐな視線を感じる。どうしようもなく。

良い!『この瞬間を詠みたい』という衝動、千年という時を乗り越えてきた強い感情と言葉、恋をしている人間のおかしさや愛しさは千年前も今もそんなに変わらないなと思わせてくれるタヒさんの解説たち。

私は恋バナが好きだし、人と恋バナしたすぎる。恋をして、突き動かされて、周りが全く見えなくなってる人のことを、愛情たっぷりに全肯定で超かわいく描いている映画や小説が好みです。

この本は、最果タヒさんの恋愛エッセイ100本ノックという感じなので、私の恋バナ欲が非常に満たされるし、続けて読みすぎると過剰摂取で疲れてくる。致死量の恋バナを浴びたいときにおすすめ。