kikiの日記

心動いたもの

だし汁の話――「正直個性論」と「インサイド・ヘッド2」

水野しず「正直個性論」

水野しずさんのこと高校生くらいの時から好きで、直接お目にかかれるイベントにも何度か足を運んだことがあるけど、著書を読んだのは初めてだった。きっかけはこちらのトークイベント。

「水野しず×宇野常寛」って並びが意外すぎて。

私は大学生のときに宇野常寛さんのアニメ評論を読んで影響受けてエヴァが大好きになったし、宇野さんの立教大学の講義に潜り込んだこともある(ダメ)。お二人の共演は初めてということでスルーできずに配信で視聴しました。すっごく良かった。水野しずさんは昔から宇野さんのファンだったようで、友人とバッティングセンターに行ってバッティングせずに宇野さんの「ゼロ年代の想像力」を読んでいたというエピソードを話されていた。私もディズニーランドの待ち時間に宇野さんの本読んでたことある。

イベントだけじゃなくて勿論「正直個性論」めちゃめちゃ良かったです。水野しずさんのように、思考を極限まで煮詰めた本気の文章を書ける方の「結論」が読めるの圧巻。とはいえ今後も水野しずさんが思考を止めることはないから、結論が変わることだってきっとあり得るとも思いました。

普段から「個性」について考えたり、思い悩んで身動きが取れなくなってしまうような人間はきっと少数派で、少なくとも私の周りは、「己の個性は」とか考える前に仕事や家庭や趣味で精一杯の日々を送ってる大人が多く見える。そして、私はどちらかというと考えてしまう側の人間だから、人にどう思われるか、どう思われる方が得かとか、結構考えて動いてしまう。本に書かれていることがすらすら理解できてしまうのが恐ろしかった。

今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします。

というコピーを目にしたとき、この本は「理想の自分」と「現実の自分」のギャップとどう折り合いを付けて生きていくのか、というような内容がメインだろうと思ってたけど、実際読んでみると社会学・アニメ評論的な話もあって面白かった。平成中期〜後期にかけての「個性」の扱われ方の変化を、当時流行した「DEATH NOTE」と「鬼滅の刃」を取り上げながら解説しているなど。ここには宇野さんの影響もしっかり感じました。

本の核心にざっくりとだけ触れてしまうと、「『個性』は『だし汁』」という表現があった。見た目や声や動きなど表面的に目立つ部分だけ取り繕ったものは残念ながら「個性」にならず、理想の自分に近づくため、もがいて苦労した過程が言葉や行動にどうしても滲み出てしまうものが「個性」になるのだと。それを言ったら、この本は「だし」になってくれるような本だよって思いました。

さらにそれで言うと、この間観に行った「インサイド・ヘッド2」という映画がまさに「だし汁」の話でした。(開始2分で泣いた、映画史上1番泣いた。私はだし汁系のアプローチにとことん弱いんだ。ネタバレ有りの映画のなぐり書き感想はこっち

私が「人にこう思われたい」と思って行動してきた結果なのかはわからないけど、最近、「あなたって◯◯だよね」とドンピシャのことを言ってもらえることがたびたびあった(人によって◯◯の部分は違う)。嬉しいのと同時に、実際はそうじゃないのに、と戸惑ってしまった。本の中に「自分の心にとって意味のあることをやっている人」は魅力的だよねという話があり、これに関しては耳が痛かった。私も何度もこの結論にたどり着いては、じゃあ何が自分の心にとって意味のあることなのかって一生答えを出せそうにないから。